あらためて感謝

春は別れの季節とはいえ
心の準備ができてないものには動揺しますわー。

 

1925(大正14年)創業、札幌で一番古いという 
老舗の写真館が幕を閉じた。

昨日始まった解体工事の現場にゴミが散乱する中、
ポツンと取り残された創業当時の骨董品カメラが。

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これもとうとう廃棄処分になるらしい。。。

歴代の誰かが加工したようですが、たぶん8×10のカメラ。

 

遠いむかし、まだ現在の仕事のコマーシャル・フォトグラファーになる前
4年弱お世話になった私の古巣です。

 

国家資格を持つ「写真師」と呼ばれる職人たちがシャッターを切っていた
昔ながらのクラシカルな町の写真屋さん。

 

家族写真、婚礼写真、式典、百日、七五三、入園、入学、卒業、成人式
遺影、証明写真、各種ポートレート…などなど 広告写真以外のほぼ全般。

 

現在ちまたに蔓延している、こども専門写真館とはちょっと趣が違う。

 

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いつも整然と物が並んでいたかつてのスタジオ

ものが無ければ、実際は写真で見るよりずっと広く、奥は天井も高い。

 

ここで私は撮影アシスタントはもちろん
写真プリントの修正、暗室作業、証明写真、複写、アルバム制作、
ちょっとした経理事務、 受付、 掃除、買い物、届け物…etc.etc.etc…

メイン撮影以外はほとんどをこなしていた。

今思えば、大変さよりも楽しい記憶の方が多かったりする。

とりわけ楽しかったのは暗室作業。

モノクロフィルムの現像から手焼きプリントまで、基礎の基礎を
きっちりと叩き込んでいただいた。

 

在籍中にちょうど「戦後50年」という年にぶつかり
この年のお盆前は連日、戦死された方々の古く、ボロボロに痛んだ写真の
複写→現像→プリントに追われ、毎日暗室に引きこもっていたことも。

帰りの地下鉄で、自分からただよう薬品臭(とくに酢酸!)を気にして
いつも空いてる場所に立っていたもんです。

 

巨大なラボの機械があり、専任のプリントスタッフは別にいたけれど、
大きなサイズのカラーの手焼きプリントを一部任されるようになり 
カラー写真の面白さに目覚め、これが現在の制作につながっているのです。

 

その暗室だった場所を覗いたら、私が使用していた当時の
メモ書きがまだ貼ってあり…なんだかしんみりしてしまった。

 

まだ一般にデジタルカメラというものが存在してなかった時代
写真の仕事ってのは、その道で地道に修行を積んだ者だけができる技術職だった。

デジカメとフォトショップと名刺だけで何とかなるものでは無かった。

現在どっぷりとデジタルに浸かりながら仕事をしてる身ではあるけれど

やはり、ここからの下積み修行が現在までずっと繋がって
今の自分があるのだな、とあらためて実感。

 

突然変異的にセンスや才能が湧いて出るような天才肌ではなかったから
とにかく地道に身につけていくしかなかったワタクシ。

そして、コマーシャルの道に進んだ時には
さらに忍耐ってのが加わって、地味で過酷で下僕なアシ時代を経て
今、写真で生きている。

 

あー、でもねぇ…だからといって下積みの美学なんてのは無いです。

今の世代の子に同じ時間のロスはさせたくないですよ。

勉強不足で後に苦労する事もあるだろうけども、あとから必死にがんばりゃいい。
すっとばして早く世に出られるならその方が建設的よ、今の時代。

 

やる気とセンスのある人は、下積しようがするまいがカンケーなく
自分でどんどん色んなもの吸収して足りないものは補って行きますからね。

本気で残りたければ必死でやりますし、
やらないということは、さほど本気でもないということでOK。

 

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I phoneブレブレですが かつて店舗だった場所。ここから2Fのスタジオへ。

 

 

楽しかったけれど、当時の写真館というのは
そこの店主である「先生 」に撮ってもらうところにお客様は価値を求めた。

気合いの入った「人生、晴れの記念写真」を残すにあたり、
何年在籍した古株だろうが、先生以外のスタッフの撮影では
お客さんにとってありがたみが薄い…という世界でもあったのですよ。

 

3年が過ぎた頃、どうしてももっと多様な人物ライティングとか
職人的な商品撮影 の勉強がしたくなり、そこから半年後に退社、広告写真の世界へ。

自分に指名をいただくチャンスのある場所に行きたかったのだ。

 

といっても、ツテも何も無いですから
NTTの電話帳を活用して売り込むとこからスタートでしたが。

電話帳の「商業写真」のページに載っているスタジオに
手当り次第に電話でアタックするも、数十件ことごとく玉砕。

しかし諦めなければ、必ず救いの手はあるもんです。

 

これは本当なのであえて書きますけども…
一番最後まで残しておいた、一番アヤシげな名前のスタジオに拾われ…

・・・あれから15年・・・現在に至る次第です。

 

 

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ここに入ったときもNTTの電話帳の「写真館」リストから
電話をかけまくって、押し掛け入社でしたねぇ。。。

 

「なかなか求人が載ってないんですぅ〜」と嘆くカメラマン志望の若者に
たくさん会ってきましたけど、 自分で電話がけしたという子はその中にはいない。

私からしたら、それは探してないのと同じです。

やりたい業種が絞れているなら、求人広告を待ってる時間がもったいない。
NTTの電話帳、自宅に無くてもどこか近くには有りますからね〜

今はネットもあるし、売り込み放題ですよ〜みなさん!

 

 

今でも写真館の仕事にはとても敬意を持っている。

コマーシャルとは違う分野の写真だから、どっちがカッコ良いとか悪いとか
比べることはまったくナンセンス。

こういう場所でしか撮れない、残せない写真がたくさんあります。

 

ありがとうございました。